「タイスの瞑想曲」の波形の見方について、説明します。

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少々波形が汚いですが、これはオケの伴奏が大きめであること、及びホールでの反響音が大きいことが理由と考えられます。類似の国内外の10種類の解析ソフト(ピッチを表示可能なソフト)を利用して同様の試みをしましたが、殆ど解析不能でした。

10名のデータをご覧になればわかると思いますが、ヴィブラートのゆれの中心部分が「大体」0centの線上にあります。多少の上下はありますが、全体をざっと眺めれば『ヴィブラートのゆれの中心部分が「大体」0centの線上にある』ことがわかると思います。

0centの線上からはずれているのもたくさんあるぞ、と仰る方もおられると思います。確かにその通りです。そしてそのことこそが、「演奏者のくせ」であり、「演奏能力のばらつき」なのです。そしてその「演奏者のくせ」を考慮すると『ヴィブラートのゆれの中心部分が「ほぼ」人間のピッチの認識と一致している』ことがお分かりになると思います。

尚、上記の「ほぼ」がどの程度の精度なのかについては、私にはわかりません。それを知るには、厳密な科学的実験が必要でしょうが、今の私はそれが出来る環境にはありません。


具体的に10名の皆さんのデータを見ていきましょう。
1.出だしのFisの音
  0centから若干上でかけておられます。No1&9&10さんはかなり高めですね。No7&8さんは、ほぼ0centです。皆さんは、「和音は純正律で、旋律はピタゴラスで」というのを見聞きされたことがおありかと思います。私はそれを全面的に支持する訳ではありませんが、まあ良いんじゃないの、くらいには思っています。で、今回の場合、出だしのFis音はニ長調の第3音ですので、ちょいと高めに弾くと人間の耳には心地よく感じます。(ピタゴラス律では、平均律より約8cent高めとなります。私のデータで+8centの位置に青い横線が描かれているのをご覧いただけると思います)。

2.2小節目の3拍目のCisの音
  これは皆さん見事に「上ずって」いますね。ピタゴラス律どころではないです。No1&5さんは25centほども上ずる勢いです。上ずり方は皆さんバラバラです。さて、いったいどなたが「正しい」のでしょうか?実はこのCis音は次のD音に向かうための「導音」と呼ばれているもので、一般に高めにとると心地よく感じます。どの程度高めに取るかは演奏者により異なり、正解はありません。そしてこれこそが、演奏者の「くせ」であり、演奏者の音色を決定する要素のひとつでもあるわけです。

3.3小節目の1拍目のDの音
  殆どの皆さんが0cent上で弾いておられます。(No1さんは若干上ずりぎみですが、No1さんのもうひとつの演奏波形を見ると、きっちり0cent上で弾いておられます。ま、これが「ばらつき」と呼ばれるものでしょうね。)。ここでのD音は、ニ長調における主音であり、「くせ」を出してはいけません。つまり0cent上で弾くべき音なのです。第3音や第7音はある意味「演奏者の個性の見せ所」かもしれませんが、主音においては音程に関して個性を出すと「へたくそ」とみなされてしまいます。そういう意味で、この10名の皆さんはさすが超一流の方々です。

更に続けてもいいのですが際限がなくなりますので、この辺でやめます。大雑把にまとめると『基音(D)や第五音(A)は0cent付近で、導音である第三音(Fis)や第七音(Cis)はちょっと高めに』というところでしょう。
重要なことは、私が上の説明を「ヴィブラートの(ほぼ)真ん中をピッチとして感じている」ことを前提として書いている、ということです。もし「ヴィブラートの上部がピッチとして認識される」なら上の説明は全く成り立ちませんし、そもそもそれらの10名のソリストは「とんでもなく音程の悪い奏者」となりますが、世間のそんなうわさは聞いたことがありませんし、演奏もとても素晴らしいものばかりです。

結論として、『人間は、ヴィブラートの(ほぼ)真ん中をピッチとして感じる』としてもよさそうですね。但し、ヴィブラートに伴って発生する音量の変化やヴィブラート波形のSIN波からのずれが、感じるピッチを上下させる可能性も十分ありうるとは思います。